(ここにタイトル)

  
※
妹紅は、ちいさな女の子でした。
ただ、いつまでもちいさな女の子でした。
かの女はふしぎな薬をのんでしまい、
いつまでも年を取らない体になってしまったのです。
そのため、村からはなれた人目のつかない
竹やぶの中で、ひとりでくらしていました。

※
いつまでも同じすがたのかの女をみて、
「おばけだ」「こわい」「ようかいだ」
と、みんながこわがるからです。
そのうち妹紅もみんながこわくなり、
竹やぶの中でくらすようになったのです。

※
ある日、妹紅がたけのこを取りに、
竹やぶの中をあるいていると、ひとりの男の人にであいました。
「おや、こんなところで人と会うなんてめずらしい。
おじょうさんは何をしにきたのかな?」
妹紅はびっくりして、あわててその場から走りさりました。
「あ、行ってしまった。おどろかせてしまったようだ。」

※
それから、たまにその男を見かけるようになりました。
ひさしぶりに見たにんげん。
妹紅は、男が何をしているのか気になって、
そういうときはとおくからそっと見ることにしました。
男はせっせと竹を切っては手ごろな大きさにして、
たくさんしょってかえっていきます。
どうやら、竹を使って炭を作っているようです。
たまに見つかってしまうこともありましたが、
そういうときは、そそくさとにげることにしました。
「なんだかきらわれちゃったみたいだ。」

※
あるとき、男は何ももたずにやってきました。
いつもなら大きなのこぎりやしょいこをもってくるのですが、
その日はちいさなしょいかごだけでした。
そしてしきりに何かをさがすように、
きょろきょろとあたりを見まわしています。
何をしているんだろう、と妹紅がとおくから見ていると、
男と目があってしまいました。
「あっ。」

※
妹紅はいつものように、にげようとしました。
「ちょ、ちょっとまちなさ……うわぁ!」
男はおおきな声でさけびました。そして、ばたん、と大きな音。
妹紅がびっくりしてふりかえると、
男がうつぶせにたおれていました。
「あいたたた……。」
妹紅はしんぱいになり、男のもとへかけよりました。
「だ、大丈夫?」
「おどろかせてすまないね、ころんでしまったよ。」

※
男は立ち上がろうとしましたが、片足をくじいてしまったようで
うまくこしを上げることができませんでした。
そこで妹紅は、男の家までつれて行ってあげることにしました。
「おじょうさん、すまないね」男はいいました。

※
「今日は、なにをしていたの?」妹紅はおずおずと聞きました。
「なえ木をさがしていたんだよ」男はそう言って、
自分のせおっているしょいかごをゆびさしました。
「千代って言うんだが、ちょっと前にむすめが生まれてね。
きねんに、にわにうえようとおもって、
手ごろなものをさがしていたんだよ。」
しょいかごの中には、ほそいけれど、まっすぐにぴんとした、
2つのなえ木が入っていました。

※
男の家は、竹やぶのはしにありました。
「本当にありがとう、おかげでたすかったよ。」
妹紅は何も言わずにうなずくと、そそくさと立ち去ろうとしました。
「ちょっとまっておくれ」男は声をかけました。
「おじょうさんはいったい竹やぶでなにをしているんだい?」
妹紅は立ち止まり、そっとふりかえって言いました。
「……一人で、住んでるの。」
「一人だって?危ないじゃないか。」
「わたし、おばけだから。」

※
妹紅は、少しだけ自分のことを話しました。
年を取らないこと、こわがられること。……こわいこと。
男はおどろくほどしずかに、はなしをきいていました。
「こわくないの?それとも、しんじてない?」
妹紅はおそるおそる聞きました。
男はにっこりとわらい、そして言いました。
「こわくないよ。それに、うたがってもいない。」

※
「おじょうさんは、おじさんを助けてくれた、やさしい子だ。
たとえおばけでもようかいでもこわくはないよ。それに……」
男はそこまで言って、とおくに目を向けました。
「むかし、おじさんはようかいにたすけられたことがあってね。
ようかいもおばけも、悪いものだけじゃないことは……
知っているんだよ。」
おじさんは、とてもなつかしそうなかおをしていました。

※
「お礼におじさんが作った炭と……そうだ、これをあげよう。
どちらもいいなえ木でね、どっちにするかまよっていたんだ。」
男はそういってたくさんの炭と、2つあったなえ木のうちの、
1本をくれました。
「いろんな人がいる。むりなことはしなくていい。
気がむいたときにはまたおいで。」
かえり道、妹紅はすこしだけ、あったかいきもちになりました。

※
妹紅はじぶんの家のまえに、もらったなえ木をうえてみました。
「いつかおっきな木になるのかな。」
そのよる、もらった炭でやいたうさぎは、
いつもよりおいしい気がしました。ごちそうさまでした。
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